ビタミンDの効果
ビタミンDはカルシウムのバランスを整えるのを手伝ったり、骨の健康を保つのに働いています。また最近では、免疫力アップ効果やガンや糖尿病、自閉症、妊娠しやすい体作りなどに有効かもしれないという報告もされるようになってきています。
ビタミンDの種類
ビタミンDにはD2~D7の6種類があります。ビタミンD1は発見された後で不純物であったことがわかったため、存在しません。
人にとって重要なビタミンDはD2とD3の2つです。D2とD3の働きは同じといわれていますが、最近ではビタミンD3の方がD2よりも2倍働きが強いとする意見もあります。
ビタミンDを得る方法
人がビタミンDを得るには2つの方法があります。食べ物から摂る方法と、日光を浴びて紫外線にビタミンDをつくってもらう方法です。
食べ物由来のビタミンDは、ビタミンD2が植物由来、ビタミンD3が動物由来です。
ビタミンD3とビタミンD2になるためには、紫外線が必要です
- ビタミンD3
- 動物性食品(魚肉、肝臓、鶏卵など)、人の皮ふに含まれる
- ビタミンD2
- 植物性食品(天日干しシイタケ、きのこ、海藻類など)に含まれる
いちばんの働き者活性型ビタミンDができるまで
皮ふでつくられたり私たちが食べたビタミンDは、肝臓や腎臓で加工されます。そしていちばんの働き者、活性型ビタミンDになっていきます。
ビタミンD3
人にとってビタミンDのいちばん大きな供給源は、皮ふにある7-デヒドロコレステロール(プロビタミンD3)です。日光に当たることによって、いちばんの働き者「活性型ビタミンD3」に変わることのできるビタミンD3に変わっていきます。
紫外線(UV-B)が当たってビタミンD3ができるまで
1.皮ふに紫外線(UV-B)が当たってプレビタミンD3になる
2.体温によってビタミンD3に変わる
3.できたビタミンD3は、タンパク質(ビタミンD結合タンパク質)によって肝臓に運ばれていきます。
紫外線とビタミンD
ビタミンD3をつくってくれる紫外線。紫外線の中のUV-B(280~315nm)と呼ばれる光がつくってくれます。UV-Bは、日焼けの原因になる光です。そしてUV-Bのうち、295nmでいちばんたくさんビタミンD3がつくられます。
UV-Bは服やガラスを通れません。ですので、いつも屋内で過ごしたり、外出するときに必ず日焼け止めを塗る人は、いつもビタミンD不足になっているおそれがあります。
紫外線(特にUV-A)が皮ふに悪いということも常識となっていますが、日光をおそれすぎずにビタミンD3をつくることのバランスを考えながら生活することが大切です。
どのくらい日光に当たるとどのくらいのビタミンDができるの?
それでは、どのくらい日光に当たるとどのくらいのビタミンDができるのでしょうか?
東京都内で夏に直射日光を30分浴びると、700~800IUのビタミンDが体内につくられるといわれています(肌の露出度10%)。
季節と緯度とビタミンD
紫外線は季節によって届く量が違います。その結果、季節によって体内でつくられるビタミンD量も違ってきます。
北半球の緯度の高い地域では、冬季にはオゾン層で紫外線が吸収されてしまうため、私たちまで届く紫外線の量が少なくなります。そのため、冬に夏と同じ時間だけ日光を浴びても、皮ふでつくられるビタミンD3は期待できません。
日積算UV-B量の月平均値(単位 kJ/m²)
観測地:つくば |
1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
8月 |
9月 |
10月 |
11月 |
12月 |
年平均値 |
参照値
(1994-2008年) |
5.37 |
8.11 |
11.64 |
16.37 |
19.65 |
19.85 |
23.59 |
23.16 |
16.53 |
11.02 |
6.72 |
4.81 |
13.90 |
標準偏差
(1994-2008年) |
0.43 |
0.91 |
0.83 |
1.36 |
1.31 |
2.24 |
4.30 |
2.72 |
1.43 |
0.87 |
0.47 |
0.38 |
0.83 |
2010年 |
5.71 |
6.78 |
11.18 |
15.32 |
19.88 |
23.64 |
26.19 |
28.26 |
18.61 |
11.69 |
6.92 |
5.18 |
14.95 |
2009年 |
5.10 |
8.24 |
11.76 |
18.88 |
19.82 |
19.24 |
23.54 |
24.16 |
18.06 |
11.32 |
6.73 |
4.68 |
14.29 |
気象庁から発表されている茨城県つくばのUV-B観測値です。7月と8月が圧倒的に多く、冬は夏の1/4~1/5くらいしか届いていないことがわかります。
ビタミンDの働き
ビタミンDの主な働きは以下の通りです。ビタミンDは、カルシウムとリンの吸収を手伝って骨を丈夫にしたり、遺伝子の働きを調節したりしています。
- カルシウムとリンの吸収促進
- 骨の形成と成長促進
- 遺伝子の働きを調節(免疫向上・糖尿病予防・発ガンの抑制)
ビタミンD不足の症状
ビタミンDが不足すると次の症状が出ます。
また、他のビタミンD不足の症状として、以下のことも研究されています。
糖尿病
- 動脈硬化
- 免疫力低下
- 自閉症
- うつ
- 花粉症
骨とビタミンD
ビタミンDは骨を丈夫にしてくれます。
ビタミンDには、カルシウムの利用を高めるという働きがあります。腸や骨でのカルシウムの動きにかかわって、血液中のカルシウムやリンを一定に保ってくれています。
ビタミンDが不足すると、体内のカルシウムの動きが乱れてしまい、子供ではくる病、大人では骨粗鬆症などの骨の病気を起こしやすくなります。
骨とは何か?
ご存知でしたか?私たちの体の中には大小206本の骨があります。何のために骨があるのでしょう。
- 体を支える
- 内臓をまもる頭蓋骨は脳を、肋骨は心臓や肺を守ってくれています。
- カルシウムの貯蔵庫からだのさまざまな反応の引き金となるカルシウムを、足りなくなったときのために貯めてくれています。
ふだんあまり考えることのない骨の働きですが、こんな大切な役割をしてくれています。健康な骨のためには、不足しがちなビタミンD、カルシウム、マグネシウム、タンパク質をしっかり摂って、適度な運動をすることが効果的です。
高齢社会とビタミンD
高齢社会を迎えている日本。「ピンピンコロリ」はみんなの願いです。高齢になっても、その最期の日まで自分の足で歩いて好きなところに出掛けたいですね。
血中のビタミンD(血清25(OH)D )濃度は筋力低下や転倒と関連があるともいわれています。
脳のトラブルとビタミンD
脳ではビタミンD3を働き者の活性型ビタミンD3に変えることができます。そしてその活性型ビタミンD3は脳の中で神経細胞の保護や増殖・分化の調節を行っていることがわかってきています。
このため、ビタミンD3は行動、精神のトラブルへの対応が期待されています。
免疫強化!?インフルエンザとビタミンD
ビタミンDは免疫を強化する可能性が示唆されています。
寒い冬がやってくると新聞をにぎわすものにインフルエンザがありますが、ビタミンD3(1200 IU/日)摂取で、季節性インフルエンザAの罹患率が下がったという報告があります1)。
【オーソモレキュラー的・感染症への対策】PDFファイル
糖尿病とビタミンD
糖尿病は、いまや世界規模の問題となっています。この糖尿病とビタミンDとの関係が報告されています。
- 糖尿病血中ビタミンD濃度が高い群は、低い群と比べてⅡ型糖尿病のリスクが64%低いことが報告されています。
Pittas AG et al : J Climn Endocrinol Metab 2007;92:2017-29
- フィンランド乳幼児10,000人を対象の研究において、ビタミンD(2000IU/日)摂取によりⅠ型糖尿病発症リスクを88%抑制できたとの報告です。
Hypponen E et al: Lancet 2001;358, 1500-3
厚生労働省の国民健康・栄養調査(H19)によれば、糖尿病が強く疑われる人は約890万人、糖尿病の可能性が否定できない人は約1,320万人、合わせて約2,210万人と推定されています。
がんと関係するビタミンD
がんとビタミンDの関係を示す報告もたくさん出てきています。
表は、がんでお亡くなりになった方の数と、血中ビタミンD濃度(25(OH)D)の関係を表したものです2)。
妊娠しやすい体作りを助けるビタミンD
ビタミンDは、妊娠の成立に大きく関わっていることが、明らかになってきています。
ビタミンDは子宮内膜の環境を整えるために、着床に必要である
Hum Reprod 2012; 27: 3015
- ビタミンD濃度は子宮内膜の着床環境に関与している
Fertility and Sterility November 23, 2013
- 40代ではビタミンD濃度が低い女性ほど卵子の減少が早い
Fertil Steril 2012; 98: 228
- PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の女性はそうでない女性に比べてビタミンD不足が多く、
ビタミンDを補充することで排卵率が改善される Clinical Endocrinology 2012; 77: 343
- 血中のビタミンD欠乏は体外受精での低い着床率や妊娠率に関連する
The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism August 14, 2014
- 体内のビタミンD濃度が正常な女性は、不足している女性より体外受精の妊娠率が上昇していた Fertil Steril February 2014 Volume 101, Issue 2, Pages 447-452
- ビタミンD不足は初期流産のリスク上昇と関連する
American Journal of Clinical Nutrition July 15, 2015.
- 習慣性流産の女性はビタミンD欠乏が多く、免疫異常のリスクも高い
Hum. Reprod. (2014) 29(2): 208-219.
- ビタミンD欠乏の男性の精子は、精子運動率や前進精子運動率、正常精子形態率が低い
Hum. Reprod. (2011)
また、妊娠中にビタミンDを十分に摂取することで、こどもが小児ぜんそくにかかるリスクが大きく低下することもわかっています。American Journal of Clinical Nutrition March 22,2007
ビタミンDに期待される臨床応用
ビタミンDは臨床医療において以下の分野への応用が期待されています。
- 乾癬(ビタミンAとともに)
- がん
- 骨粗しょう症
- 免疫力向上
- 花粉症など各種アレルギー
- 糖尿病
- うつ病(特に季節性うつ)、統合失調症
- 自閉症
ビタミンDを多く含む食品(1食当たり使用量と含有量/1μg=0.025 IUで計算)
ビタミンDを多く含む食品としては、サケ、マスなどの魚介類に多く存在します。
きくらげなどのきのこ類にも含まれますが、穀類や野菜には含まれておらず、肉類にもそんなに多くはありません。
食品 |
焼き鮭 |
うなぎ蒲焼 |
さば水煮缶 |
きくらげ |
鶏卵 |
 |
 |
 |
 |
 |
1食当たり
使用量 |
大きめ
1切れ
(100g) |
1/2尾分
(80g) |
1缶
(固形物
120g) |
1個(乾)
(1g) |
1個
(55g) |
含有量 |
39.4μg
(1576 IU) |
15.2μg
(608 IU) |
11.0μg
(440 IU) |
4.4μg
(176 IU) |
1.0μg
(40 IU) |
日本人のビタミンD摂取上限と平均ビタミンD摂取量について
日本の食事摂取基準2010年版ビタミンD耐容上限量は成人で50μg/日となっていますが、これまで公表されたビタミンDのリスク評価では、大部分の健康な人にとって安全な1日のVD3摂取量は、250μg(10000 IU)としている報告もあります3)。
平成21年国民健康・栄養調査(厚生労働省)によれば、ビタミンDの摂取量は、日本人20歳以上の男性平均で8.5μg(340 IU)、女性平均で7.3μg(292 IU)となっています。
ビタミンD摂取上限について
かつて欧米でビタミンD強化食品が多かった時代に、特発性高Ca血症と関連する病気が増えたそうです。
ビタミンDに関しては、皮膚でつくられるビタミンD量と食べ物から摂るビタミンD量を足した量で毒性が無いことが重要となります。
しかし、従来規定されていた摂取上限では、本来ビタミンDが持つ多くの有益な作用が得られないことが指摘されてきています。
ビタミンD3を1日250μg6ヶ月間の摂取でも安全であることなども報告されていますので、その量について見直しが進められているところです。
もしかしてビタミンD不足?
ビタミンD欠乏症は、世界中で約半数の人に認められ、その率は上昇傾向にあるといわれます。その理由としては、以下のことが考えられています。
- 野外での活動性の低下
- 大気汚染
- UVカット製品の使用
- 人口の高緯度傾向
ビタミンDは足りていますか?
該当する項目をチェックしてみましょう。チェックがついた方は血液検査にてビタミンDを測ってみるといいかもしれません。
|
インフルエンザを予防したい |
|
骨粗しょう症を予防したい |
|
花粉症が気になる |
|
うつ病、統合失調症である |
|
がんの予防や治療 |
|
自閉症、発達障害である |
|
血糖コントロールが不良 |
|
アルツハイマー、パーキンソンが気になる |
【参考・引用文献】
1)Urashima M, Segawa T, Okazaki M, et al. Randomized trial of vitamin D supplementation to prevent seasonal influenza A in schoolchildren. Am J Clin Nutr 2010;91:1255-60.
2)D.Michael Freedman,et al.Prospective Study of Serum Vitamin D and Cancer Mortality in the United States.J Natl Cancer Inst 2007;99;1594-602.
3)John N Hathcock,et al. Risk assessment for vitamin D. Am J Clin Nutr 85, 6-18, 2007